メッセージ

私の興味の対象は、建築とは何かということにずっとあります。いやもっというと、暮らしを包むものが建築だとすると暮らしとはなんだろう、というのがずっとテーマの根底にあるのです。百人いれば百人の暮らしがあるといいます。しかし一方で暮らしへの意識は一つの方向に向かっているようにも思います。今までたくさんの人の暮らしをさまざまな地域で、さまざまな企業で調査してきました。持ち物や、料理、各部屋での過ごし方、洗濯の仕方、収納などについて、コミュニティーとの関わりについてなどを細かく聞いてきました。しかしそこから浮かび上がってくるのはどれも特別なことではなく、些細な日常の中に多くの人が幸せを感じているということでした。それは暮らしそのものの中にどのような喜びを見出し、豊かな時間を見出し、それを楽しんでいけるかということでしょう。そしてそのことが何より重要なのだと思うようになりました。その意味で建築より、そこで展開される暮らしそのものが重要であると考えています。そうなると家はもっと控えめでいい、主役である暮らしの背景として、普通であり、単純であり、主張しない建築のありようがあるのではないかと思うのです。普通の品質を上げていくこと、そこに自分の役割を見出しつつあるのです。

もう一つ、ここニセコに来てからの大きな関心は自然とどう向き合い、そして田舎に住む豊かさについてです。日本は今大きな転換期を迎えています。成長の時代が明らかに終わり、人口縮小へと向かっています。2050年には人口が8千万人以下つまり現在の60%ぐらいになります。さらにずっと先ですが、2100年には3千万人近くになると言われています。途中どこかで定常化するのかもしれませんが、人口は必ず減ります。そして過疎地はさらにこの傾向が強くなります。しかし一方で社会の構造は大きく変わっていきます。今まで中央集中型の社会から小規模分散型の社会に変わるでしょう。テクノロジーも発達してどこでも仕事ができるようになると、住む場所の選択肢は一気に広がります。また一つの場所でなく、いくつかの拠点を行き来する人も出てくるでしょう。そうなってくると、過疎地で暮らすことの価値は上がってきます。それは自然との距離感です。また一人1家族で住むのは大変ですから、小さなコミュニティーも必要です。

2050年を待たずとも、私たちの暮らしは大きく変化していきます。経済の仕組みの中核である貨幣経済も綻びを見せ、働くことの意味も変わるに違いありません。また合意形成の仕組みもテクノロジーを使いながらより直接的な合意形成システムが生まれるでしょう。

縮小することが決して悲しいことではなく、未来の豊かな暮らしを実現する転換期だと捉え、ここ北海道の地で新たなプロジェクトもスタートさせています。

このサイトで過去の仕事などの整理をしないといけないとも思っているのですが、ついつい前に向かって進む性格なので、過去のことを忘れてしまいます。少しずつ整備していきます。

なお、このニセコではじめた都市未来研究会の成果の一つとして「村づくりの定め」と題して景観コードの作り方の出版を準備しています。2023年の秋頃に出版される予定です。またご報告します。

 

土谷貞雄
2022年12月